1

葛笠村は、夜である。
先ほどまで降っていた雨はあがり、今は冴え冴えとした満月が浮かんでいた。
村の奥の林のなかで、ふたつの呼吸が息づいている。男と女が、闇のなかで抱き合っているのである。
女はこの年で十八、男は三十五。美女と野獣といっていい。

男の体躯は隻眼破足、名を山本勘助という。先刻、侍をひとり殺していた。
女の名は、ミツ。抱きしめるとその倍の力で抱き返してくる。そういう女だ。

ミツが、勘助にささやく。
「うらには、勘助のこころに咲いてる花が見えるだよ」
それは愛の告白といってよかった。


……………

勘助は、ミツに覆い被さるように抱いている。
草の繁みが寝床で、月と星は天井だ。野の獣どもは寝静まって、ふたりの荒い呼吸だけが辺りに響く。
ふたりの横には屍体があった。
勘助が屠ったその骸は、首と胴に別れて転がっている。
その隻眼を骸のほうにを向けて
(わしも、いずれは、こうなる)
と思う。
寂漠としたものから逃れるように、ミツに優しくささやく。
「恐くは無いか」
「恐い、勘助の、顔」
そう言って笑った。
(ミツは、強い)
勘助が舌を差し込めば、ミツは答えるように絡んで来た。
離すと、透明な滴の糸が引いた。
「うら、もっとこうしていてぇずら」
ミツは不意にそうを言った。

瞬間、勘助を哀しいものが貫いた。
しみ入るような熱さが、躰の内奥を打った。
ミツを、ひたすらにいじらしく思ったのである。

勘助には、ミツの明るい強さが逆に彼女の厳しい宿命を裏付けるものだと思えてならない。
明日、自分はこの村を発つ。もう戻ってこないだろうという予感がある。
この女は、それを知っているのか?
知りながら、自分を求めているのか?
「月」
「え?」
勘助が振り仰ぐと、満月だった。
「うらはこの格好だから、あのキレイなお月さまが見えるんだども、勘助はその格好じゃあ見えねえずらな」 ミツを下に敷いた格好なのである。
「今夜はとくにキレイずら」
「月が好きか」
「見とると、ぼんやりしてくるじゃ」
「わしはそなたの顔を見れれば、それだけでよい」
「…うれしい」
ミツは恥じ入るように顔を背ける。
その仕草が勘助を惑乱させた。
血が、どうしようもなく沸った。
(これは、止められぬ)
丸い首筋に強く吸い付くと、ミツはくぐもった甘い声を漏らした。

「勘助ぇ、そこがいい…」
せつない喘ぎを聴きながら、勘助は自分が欲望を止められぬ何者かになって落ちてゆくのを感じた。

2

ミツは土の香りのする女だった。
勘助の鼻腔は、ミツの躰の奥から発する土と汗の混じりあった臭いに満ち、そこに強烈な淫媚さを嗅ぎとると、自然に抱きしめる腕の力が強まる。
しなやかな筋肉の存在を、着物を隔てていてもありありと感じた。
もっと、直に感じたい。衣服など邪魔だ。
そう思うやいなや、勘助はミツを突き放して脱ぎ始めた。
「どうしたのけ?」
ミツは、勘助が急に離れたことに驚いて見上げると、もっと驚いた。
闇のなかに仁王立ちの勘助の裸身が浮かび上がっているのである。
怒張した摩羅が荒い呼吸とともに跳ね、汗が月明かりに反射して光った。
「おねしも脱げ」
ほい来た、とミツは敏捷に立ち上がり、するする帯を解く。橙色の着物がはらりと落ちる。
男の前に真裸を投げ出すと、全身に夜風を浴びて気持がよかった。

ミツの小柄な躰は筋肉が引き締まって、子鹿を連想させた。
お椀のような丸々とした乳房がふたつ、みずみずしい張りを保ちながら突き出ている。

乳首は固く尖って、それは夜風の冷たさのせいだけでは無い。
下腹の、黒々と生え揃った茂みには、硬質のちぢれ毛が手入れされないまま堂々と息づいている。
ミツは惜しげもなくそれらを晒し、草の上に佇んだまま動かない。
恥ずかしがる必要は無かった。お互いが下帯も何もつけない裸である。
闇のなかにぽっかりと浮かびあがるミツの肢体は、ますます妖しい光を放ち辺りを照らすかの如く艶やかに見えた。
勘助は衝動に突き動かされミツを荒々しく掻き抱くと、そのまま草むらに押し倒し、大地の上に伏せて口付けする。
剥き出しの肌に、同じ土の冷たさを感じながら。

勘助のぶあつい掌は、ミツの皮膚の上をまるで蝮のように這う。その肌はじっとりと汗ばんでおり、感触は唐磁器に似てなめらかである。
「んん……ぁぁん…」
いたわるように撫で、責めるように揉んだ。あたかも、ミツがそこにいることを確認するかのような手付きで。
事実勘助は、ミツの腰の丸みや肩や腕の骨の硬さ、若い肌の弾力などを掌に感じる時、女がそこに確にいるという実感を得た。
ミツもまた、触れられて快感を得ることによって、はじめて自分の肉体を得たような気がした。
勘助は、まるで職人のような手付きで、ミツの躰をかたち造っているのである。

やがて両の手は乳房に到達し、その柔かく白いものを揉みしだく。
「んっ…ぁはぁ……んんっっ!」
乳房に深く沈む指はその柔かさを感じながら、また寄せて返す反復運動、つまり若さゆえの弾力をも感じる。
当たり前のことだが、乳房から指を退ければ窪んだ跡はこんにゃくのように震えて、本来の形を回復する。
その当たり前のことが、ミツの水々しい若さを証明するようでもあり、生き物の神秘のようでもあり、勘助の興奮をさらに高めた。
「おぬしは、俺が抱いたどの女より、よい躰をしておる」
「うら以外の女のことなんか、思いだしちゃ嫌ずら」
ミツはむくれた声で言う。それは閨の睦事のようなふざけた感じでは無く、真実むくれたような声であった。
「機嫌を直せ」
人指し指で先端の蕾を奔びながら、耳たぶを口にふくむと
「ひぃあっ…!」
ミツの躰がびくんと跳ねて、大きな嬌声をあげた。
芯は通っているが外壁は柔かい、乳首にはそんな感想を持った。
「直ったかね」
「まだまだ」
「強情な女だ」
ならば、と云うように勘助は唇を左の乳首に宛てがう。
「ひぃあっっ!」
ミツが痺れたような声をあげる。勘助は赤子のよう乳首吸いながら、ミツの高まる鼓動を聞いた。



不意に、勘助の下腹にここちよい異変が起こった。
ミツの指先がふぐりをまさぐり、揉んでいるのである。
驚いて顔を見合わせると、ミツはすがすがしいくらいの笑顔で微笑みかけてきた。
(許してくれたか)
と安堵すると同時に
(けなげな、おんなだ)
との感慨をも抱く。
勘助はミツのしていることを、はしたない、とは思わない。
(わしを喜ばそうとしているのだ)
そう素直に思うことについて、この男はなんの躊躇いも無いのである。
(よし)
体位を素早く変え、ミツの足のほうに頭を向けた。そこには黒い繁みの一角がある。
(おんなとは、かようにも濡れるものか…)

ミツは
(あっ)
と思う間もない。既に、舌が侵入している。
「あ…はぁああ……ぁん……」
勘助のざらついた舌が、巧みに肉襞を掻き回す。
舌を出し入れし、なぞり、吸い付いたりして刺激を与え、ぷっくりとした肉の芽を舌先で器用に剥くとそれをちろちろと転した。
「ああっ!…んっ……あはぁぁ……」
「ここがよいか」
「はぁぁぁんっ…、そこ、いい…!」
それは洪水の光景を想起させた。

甘い酔いはミツの全身を浸し、舌が中を擦るたびに雷が走り、気を遣りそうになる。
ミツは、快楽の陶酔に支配された頭で考えた。
(うらも、なにかして勘助に答えにゃあ)
見上げれば勘助の男根が、ぶらぶら、揺れている。
(男など、こうしてみれば他愛もないものじゃな)
そんなことを思った。そして、こいつをどうにかしてやろうと考えが決まった。
(勘助、いくだよ)
ミツは野太い肉棒を根本からつかまえると、亀頭の先端へ接吻する。口中に唾液を蓄え、一気にそのものを頬張る。
固く凝った肉棒は、口には完全に収まりきらない。それでも、舌でなぞるようにして舐め回すと、勘助の呻きが聞こえた。
「かんしゅけぇ…きもふぃいいだか?」
「おぬし、どこで」
「…おくまに教わったんじゃ」
言いながら、ミツは額に汗を流し懸命な愛撫を続ける。
ふたつの陰嚢をしゃぶり、裏筋をしごきあげ、尿道口をほじくるなど、知っている限りのあらゆる手段を尽す。
亀頭の先端から染み出てくる汁をすすりながらしごくと、下品な音が発して、それが少し恥ずくもあったが、同時にますますミツを高ぶらせた。
(中が、じんじんして、せつないずら)
子宮が、男を求めて疼くのである。

「勘助、気持いいだか?」
「凄いことを聞くやつだな」
「ねえ、いい?」
「男子の鉄腸も蕩ける、というやつだな」
「うらはずぅっと蕩けっぱなしじゃ」
「はは」
(蕩けるどころの騒ぎでは無い。逝きそうだ)
勘助は泣きたかった。



「ねえ、勘助」
「ん」
「うら、おぼこで無ぇくてごめんな」
「そんなこと」
と勘助は笑って、顔を見合わせる体勢に戻ると、ミツは涙目になってこちらを見つめていた。
「な、ごめんな」
「どうした」
「なんか、急に情けなくなってきて……」
思えば、まだ十八の娘なのである。十以上も離れた男、しかも流れものの浪人と契ろうというのだから、度胸がある。
「勘助は、うらぁでええんか?」
「……女なら、誰でもよいのだ」
拙い答えを言ったと思った。幸いにもミツは
「馬鹿」
と呆れるように笑ってくれた。
「そういう時は、男は黙って抱きしめるもんずら」
指南までされてしまった。
しかしながら、やっぱりミツは強いおんなだ。勘助は己の年甲斐の無さに比べてみて、感心してしまう。
そんな場合では無いが、とりあえずミツを抱きしめてみる。
「遅い!」
ミツは、げらげらと笑った。勘助は苦笑する他ない。
「ついさっきまで、色っぽい顔して喘いでいたのはどいつじゃ」
「いい年なのに、おなごのあしらいが下手すぎるずら」
「……お前を抱きたいな」
何か、事も無げな調子で勘助は言った。
ミツは、今度は笑わなかった。黙って、膝を開いた。

「ぁぁああああッッッ!」
闇を、ミツの叫び声が切り裂く。
歓喜の呻きは辺りを満たす。
「ああっんっ……やっっ…ん…っあっああぁぁぁぁ!」
全身を貫く甘美な振動。
勘助が腰を打ちつけるたびに、強烈な愉悦の波紋は全身に広がって、指先まで痺れた。

皮膚も骨も肉もみな溶けてしまいそうな、熱い官能である。
「ああっ…勘助ぇっ、もっと…もっとっっっ!」
叫び声に呼応するように、勘助は激しく腰を振る。
肉の襞が、男根を強く締め付けるのに耐えた。突くたびに中が潤った。
ミツの表情を見ると、恍惚として美しい。
眉間には快楽のために皺が寄り、汗で黒髪が肌にまとわりついている。
その程よい厚みの眉毛、漆黒に光る瞳、形よく隆起した鼻梁、唇から漏れる白い歯……

全ての表情が美しく、なんと生き生きと輝いていることか!

喘ぐなかでミツが言った。
「上、いいだか?」
「?」
と、思うとミツの躰がせり上がってきた。
「勘助が、寝てくれろ」
ミツの躰が上になる。
(あっ)
「これで月、見えるだか?」
ミツは、自ら腰を振りながら、いたずらっぽく笑った。
勘助の頭上に、ミツの躰と重なって、満月がある。
「ああ、みごとじゃ」





ミツは髪を振り乱し、豊かな乳房を揺らして、豪快に腰を上下させる。
勘助がその動きに合わせて下から突き上げると、結合した部分が、くちゃくちゃ、粘液の音をたてる。
ふたりの快楽を貪ぼる運動は、音楽にも似た規律を示す。そして運動の音楽は、また官能の音楽でもあった。
演奏は、やがて激しく、終極の絶頂に向かって奏でられてゆく……
「あんっ!……はッ……あぁんっ!!……んんッ!!……」
「ミツっっっっっっ!ゆくぞッッッッッッ!!」
勘助の陶酔した思考のなかで、ミツと満月の形が重なって白く濁ると、そのいきりたった陽根は、勢いよく精液を吐き出した。
「ひゃぁっ!…あっあっっ!あぁぁぁー―――っっっっ!…イクぅっっ!」
ミツは子宮の奥にほとばしる精液を感じると、沸き上がるような快楽に躰がびくんと反り返った。


………


共に果てながらふたりは、ささいな優越感を感じていた。
──死者に、かような快楽は得られまい
横の草むらに、さむらいの生首が転がっているのである。
死者は、こちらを見透かして睨んでいるようにも思われた。
──いずれは、みな死ぬ、それまで、せいぜい楽しむことだ


………


ふたりは、荒い呼吸をととのえている。
(これで、よかったのか?)
勘助に、再び疑念が頭をもたげた。
しかしミツの顔を見れば、安堵しきった笑顔なのである。
(これで良かった)
そう思うことにした。

夜が明けるまでには、まだ時間がある。
気が付けば、ミツはまたしたくなっている。
勘助のそれを撫でると、まんざらでも無いようで、再び硬さを取り戻しはじめた。

その後、運命は変転し、勘助は村にもどることになるのだが、世のなかは一期一会なのである。
今契らずに、いつ契る?


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