弘治二年の六月のある夜、越後春日山城内の毘沙門堂に、真言を唱える声が響いていた。
声の主は、城主、長尾景虎である。

深く帰依する毘沙門天に、懸命に祈りを捧げる景虎。
だが、その胸中は、煮えくり返るような思いで満たされていた。
(何故皆、愚かなことでいがみあう・・・)
家臣たちに対してである。

領地、あるいは己の面目。
景虎から見れば、いずれも些細なこと。
だがそれらのために、家臣たちは互いに徒党を組み、いがみあうのだ。
(虚しい・・・)
怒りと共に、虚しさが込上げてくる。

『景虎』
(姉上?)
景虎はふと、姉である桃姫の声が聞こえたような気がした。
(・・・ふっ、愚かな)
五年前、上田の長尾政景の元に嫁いでいった姉の桃姫が、この場にいるはずがない。
そう、長尾一族の団結のため、それまで敵対していた政景に嫁いだ桃姫。
だが、政景との夫婦仲は円満で、この正月には次男、卯松が生まれている。
(姉上・・・)
景虎の脳裏に、姉の、そして姉の夫たる政景の顔が浮かんだ。


「殿、いけませぬ・・・」
「ふふふ。よいではないか、桃」
政景の手が、妻の襟元を割って押し入る。
「いけませぬ・・・」
恥らいの声をあげる桃姫だが、その声色に強い拒絶は感じられない。
むしろ、夫の手がその乳を弄ぶにつれ、その声には甘い媚が混じりだす。
「殿・・・」
微かに潤んだ目を夫に向ける桃姫。


政景はそんな妻を満足気に見やると、やおら桃姫の腰帯に手を掛けた。
結びを解くや、一気に帯を引く。
「あ〜れ〜」
くるくると回る桃姫の体から、夜着が滑り落ちる。
そして、染み一つ無い白い裸体が、夜具の上に仰向けに倒れた。
恥ずかしげに身を縮める桃姫。
政景はしばらくの間、じっとりとした視線で舐めるように見つめた後、妻の足元に蹲った。
ほっそりとした足首を手にとり、うっとりと頬ずりする。
さらに、愛しさを込めて口づける政景。
「と、殿・・・」
桃姫の戸惑いの声にも構わず、夫の唇は彼女の足を遡っていく。
脹脛から膝の裏、太腿を経て両足の付け根に達した政景は、迷うことなく妻の秘所に顔を埋めた。
「い、いけませぬ!」
さすがに制止しようとする桃姫だが・・・
「・・・あ、あぁ・・・」
舌による甘美な責め弄りの前に、忽ち艶めいた喘ぎ声を漏らしだす。
「桃・・・」
政景が顔を上げた。
夫婦の視線が合った。
「殿・・・」
愛しげな呟きと共に、おずおずと両足を広げる桃姫。
政景は満足気な笑みを浮べると、愛する妻の上に伸し掛かっていった・・・。



「姉上!」
自らの叫び声で、景虎は我に返った。
「夢・・・、いつの間にか、眠っていたか・・・」
呟きと共に、強烈な自己嫌悪に包まれる。
「なんという夢を・・・」
景虎は頭を抱える。

景虎の前に立つ毘沙門天像。
景虎には、その顔が、いつになく厳しいものに感じられてならなかった。

第一夜・終わり

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